まさか、自分がゴミ屋敷の住人になるなんて、数年前までは想像もしていませんでした。私は、ごく普通に会社勤めをし、週末には友人と出かける、どこにでもいる人間でした。その歯車が狂い始めたのは、長年付き合っていた恋人との突然の別れと、仕事での大きな失敗が重なった時でした。心にぽっかりと穴が開き、何をしても楽しいと感じられなくなりました。会社から帰ると、ベッドに倒れ込むだけの日々。最初は、脱いだ服を洗濯する気力が湧かない、ということから始まりました。次に、食事の後の食器を洗うのが億劫になり、シンクに汚れた皿が積み重なっていきました。コンビニで買ってきた弁当の容器は、テーブルの上に放置され、やがて床にも散らばるようになりました。部屋が汚れていくことに気づいてはいましたが、片付けるエネルギーがどうしても湧いてこないのです。むしろ、ゴミに囲まれていると、外界から守られているような奇妙な安心感さえ覚えるようになりました。ゴミの山は、誰にも見られたくない私の心の弱さを隠す、バリケードのようでした。友人からの連絡は途絶え、私は社会から完全に孤立しました。鏡に映る自分の姿は薄汚れ、部屋に充満する異臭にも鼻が慣れてしまいました。自分はなんてダメな人間なのだろう。自己嫌悪の念が、さらに私を無気力にさせました。そんなある日、激しい腹痛に襲われ、救急車を呼ぶ事態になりました。救急隊員が、ゴミをかき分けながら私を運び出す時の、驚きと憐れみが混じった視線。その時、私は初めて、自分が「普通」ではない、助けが必要な状態なのだと、心の底から思い知らされたのです。あの視線が、セルフネグレクトという深い海の底から、私を引き上げてくれるきっかけとなりました。